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「君が代」訴訟 訴 状
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別紙被告目録記載のとおり
「君が代」テープ配布にかかる原状回復及び損害賠償請求住民訴訟事件
請 求 の 趣 旨
一、別紙被告目録1乃至9記載の被告らは、各自、京都市に対して金四四、九五〇円及びこれに対 する訴状送達の日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え.
二、別紙被告目録一〇乃至一八七記載の被告らは、京都市に対し、一九八六年(昭和六一年)三月 頃京都市教育委員会が配布した「君が代」のカセットテープを引渡せ。
三、訴訟費用は、被告らの負担とする。 との判決ならびに仮執行宣言を求める。
請 求 の 原 因
一、当事者
1、原告らはいずれも京都市(以下市という)に居住する住民である。
2、被告池田正太郎は市の教育委員会(以下委員会という)委員長の、同大辻一義、同藪内清、同清 水栄、同広中和歌子はいずれも委員会委員の、同高橋清は教育委員会事務局(以下事務局とい う)教育長の、同矢作勝美は事務局総務部総務課長の、同岡部弘は同部施設課長の、同中城忠 治は事務 局指導部学校指導課長の各地位にそれぞれ一九八五年(昭和六〇年)四月から一 九八六年(同六一年)三月までの間あった。
3、別紙被告目録一〇乃至一八七記載の被告らは、一九八七年(昭和六二年)現在、いずれも市の 小学校又は中学校の学校長である。
二、公金の支出及び「君が代」カセットテープの配布
1、被告池田正太郎,同大辻一義、同薮内清、同清水栄、同広中和歌子は、市の委員会において、 一九八六年(昭和六一年)二月始め頃、同年三月に市内の各小学校、中学校で挙行される卒業式 及び 四月に挙行される入学式において、「君が代」斉唱及び演奏をさせるため、「君が代」の演奏 及び合唱を録音したカセットテープ(以下本件カセットテープという)を市内の各小学校、中学校に配 布することを決定した。
2、被告高橋清、同矢作勝美、同岡部弘、同中城忠司は、同年二月七日頃右決定を実行するために、 市内の小学校中学校数に合せてカセットテープ二九〇本(単価一五五円).を購入することを決定し た。
3、被告高橋清、同中城忠治は、右カセットテープに「君が代」の斉唱及び演奏を録音されたテープ よりダビングを行って本件カセットテープを作成し、これを一九八六年(昭和六一年)三月四日頃市 内の各小学校及び中学校の学校長らに配布した。
4、よって、右被告目録一乃至記載の被告らは、共謀して、一九八六年(昭和六一年)三月四日頃、 カセットテープ購入代金として金四四、九五〇円の公金を支出させると共に、同日頃本件カセット テープを配布し、これを処分した。
三、公金支出及び「君が代」カセットテープ配布の違法
1、本件カセットテープの購入及び配布は、市内の各小学校、中学校で挙行される卒業式、入学式に おいて右の儀式に参加する児童、生徒、教職員、父母らに、「君が代」を「国歌」として斉唱・演奏さ せることを目的として実行されたものである。
2、ところで、学校儀式において、「君が代」を斉唱することは、次のとおり、一定の思想信条の表現方 法の一つである。
戦前、主権は天皇にあり、国民は天皇の「臣民」として天皇の統治の対象であった。このような 天皇主権の根拠は、日本は皇祖とされる天照大神以降万世一系の天皇が「王たるべき地」であるこ とが「神勅」によってきまっており、天皇は神聖にして侵すべからざる神格を有しているからであると の考え方(天皇制イデオロギー)にもとめられてきた。そこで、この天皇制イデオロギーを国民に徹 底させることが、学校教育の主要な役割となり、教育勅語の配布によって国民の道徳律を確立する と共に、その普及方法として、学校儀式が挙行された.しかも学校儀式の方式は、一八九一年(明 治二四年)六月一七日制定の「小学校祝日大祭日規定」により、紀元節、天長節、元始祭、神嘗祭 及び新嘗祭の儀式は、天皇・皇后の「御影」に対する最敬礼、天皇・皇后陛下万歳、教育勅語「奉 読」、校長による祝日大祭日に相応する訓話、唱歌の合唱をなすものとされ、これにもとづき一八九 三年(明治二六年)八月には、文部省告示により、小学校における祝日大祭日の儀式の際の唱歌 用の歌詞並びに楽譜として「君が代」「紀元節」「天長節」など八曲が選定され、祝日大祭日の学校 儀式においては「君が代」斉唱が強制されてきた。そして、このように儀式を通じて、天皇・皇后の「 御影」に対する最敬礼、天皇主権による統治の永統を祈る歌詞をもつ「君が代」の斉唱といった身 体的動作を反覆することにより、天皇畏敬の念を培かうための訓練をしたのであった。
したがって、右のような歴史を有する学校儀式における「君が代」斉唱は、神聖にして侵すべから ざる万世一系の天皇主権による統治の永続を「臣民」が願い、祝うという思想信条の表現を強制す るものであった。
3、ところで、日本国憲法前文は「日本国民は……ここに主権が日本国民に存することを宣言し」と 規定して、国民主権の原理を宣言している。前記天皇制イデオロギーはこのような国民主権の原理 と全く相反する統治原理であり、したがってて、学校儀式において「君が代」斉唱・演奏を強制す ることは日本国憲法前文に違反するものである。
4、また、日本国憲法は、第一九条において「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」 とし、同第二〇条一項前段において「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。」とし、同条 二項において「何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。」とし て、権力が特定の思想・信条を押しつけたり、抑圧してはならないという内心の自由を保障している 。
学校儀式において「君が代」の斉唱・演奏を強制することは、特定の思想・信条を押しつけそれを 表現させることであり、このことは憲法第一九条、同二〇条一項前段、二項の規定に反する違法 な行為である。
5、さらに日本国憲法第二三条(学問の自由)、同第二六条一項(教育を受ける権利)は、国民の教 育を受ける権利を保障し、これを受けた教育基本法第一〇条一項は、「教育は、不当な支配に服す ることなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」とし、同二項は、 「教 育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わ れなければならない。」と規定し、権力が教育内容に介入し教育を支配することを禁止している。教 育の自由というべきこの原理の確認は、戦前の国家主義的な教育体制の否定という歴史的意味を もっている。
学校儀式において「君が代」を斉唱・演奏させることは、「君が代」が持つ特定の思想、イデオロギ ーを学校教育に持ち込むものであり、しかも、権力がそれを一方的に押つけるものである。このこと は、教育の自由を侵害し、教育への国家不介入の原則に反するものであり、憲法第二三条、同第 二六条一項、教育基本法第一〇条一項・二項に違反する違法な行為である。
四、京都市の損害及び「君が代」テープの管理・占有
1、被告目録一乃至九記載の被告らが共謀して、本件カセットテープを購入し、市内各小学校、中学 校の学校長に配布した行為は、前記違法な目的に使用することを企図して実行されたものであり、 被告目録一乃至九記載の被告らは、共同して故意によって違法目的のために公金を支出させ、市 に対し本件カセットテープ購入代金相当額である金四四、九五〇円の損害を与えた。
2、また、被告目録一〇乃至一八七記載の被告らは、前記違法な目的に使用することを企図して市の 委員会より市の所有にかかる本件カセットテープを無償で配布を受け、又は配布を受けた前学校長 から受領して、これを自ら排他的に所持占有している。
ところで、市の委員会による右被告らに対する本件カセットテープの配布は、前記第三項に述べ たとおり、違法な財産の処分であると共に、日本国憲法、教育基本法の下における公序に反する無 効な処分である。
したがって、右被告らの本件カセットテープの排他的所持占有は何らの法律上の原因なくしてなさ れているものである。
五、監査請求
1、原告らは,一九八六年(昭和六一年)一〇月一六日付けで右公金違法支出につき京都市監査委 員に対し、地方自治法二四二条一項に基づく監査請求を行なったところ、京都市監査委員は同年一 二月一五日、右監査請求に対し、「請求に理由がない」とする三名の監査委員の意見と「請求に理 由がある」とする一名の監査委員の意見に分かれ、最終的に意見の一致を見ることができず、合議 が整わなかったため、監査の結果を決定し得なかったとして原告らに対しその旨通知してきた。
2、ところで、監査委員の意見が別れ、最終的に意見の一致を見ることができずに、監査結果を決定 し得なかったということは、市の職員措置請求に係る監査として異例のことである。しかも、監査委 員の中に、「君が代」カセットテープを配布するために行った右公金支出が違法不当であるとして原 告らの請求に理由があるとする意見があり、請求に理由がないとする意見も、「君が代」の斉唱を指 するものとされている学習指導要領がしかるべき手続において違法と最終的に判断されないかぎり 、これを遵守することを求められている教育委員会の行為として相当であるとするものであり、「君が 代」斉唱を強制することが憲法第一九条の規定に抵触し、「君が代」の斉唱を指導するものとされて いる学習指導要領が違法かどうかの判断は監査権限外であるとして、その判断を後の司法判断に 委ねたものである.このことは、「君が代」斉唱の強制が憲法の根幹に触れる重大な問題を持つも のであることを、監査委員全員が認めたこと意味している。
六、結論
よって、原告らは、地方自治法第二四二条の二第一項に基づき市に代位して、
第一に、別紙被告目録一乃至九記載の被告らに対し、市に対し、連帯して、違法な公金の支出に よって市に与えた金四四、九五〇円の損害金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から完済に至 るまで 民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、
第二に、別紙被告目録一〇乃至一八七記載の被告らに対し、市に対し、本件カセットテープの所 有権にもとづく返還請求権にもとづき、本件カセットテープの引渡しを、それぞれ求めて本訴に及ん だ。
一九八七年(昭和六二年)一月一三日
京都地方裁判所 御中
京都市職員措置請求書 (監査請求書)
一、請求の要旨
京都市教育委員会は、今春の卒業式、入学式に先立って、市内約270の小中学校に・「君が代」のカセットテープをもれなく配り、式では「君が代」を国歌として斉唱、演奏するよう強制した。
その結果、京都市の卒業式、入学式における「君が代」斉唱、演奏は、去年まで小学校2%、中学校0%にすぎなかったのが、多くの教職員、保護者の強い反対にも拘わらず、今回の入学式では、小学校73%、中学校51%もの学校で、「君が代」が斉唱されたり、メロディが流されたりしたと言われている。
言うまでもなく、「君が代」を国歌とする法的根拠は全くなく、それどころか天皇主権思想の「君が代」を国歌として強制することは、日本国憲法の国民主権の精神と根本的に矛盾するものである。また憲法19条(思想及び良心の自由)、20条(信教の自由、国の宗教活動の禁止)にも抵触している。
さらに、教育委員会が「君が代」を国歌として学校教育の場に強要することは、教育基本法十条で制限している、教育行政の教育内容への不当な介入であり許せることではない。
また戦前において「君が代」は、「日の丸」、御真影、教育勅語などと共に、学校儀式を通じて「忠君愛国」教育推進の中心的役割を果たしてきた。そしてまた、侵略戦争のシンボルとして、二千万人のアジア人民を殺してきた。このような「君が代」「日の丸」の歴史的役割を考えると、「君が代」「日の丸」が今再ぴ学校教育の場に強制されるのを認めるわけにはいかない。
従って、今回の京都市教育委員会による「君が代」テープ配布は、違法、不当な公金の支出であり、京都市教育委員会委員長、池田正太郎、同委員、大辻一義、薮内清、清水栄、西川喜代子、教育長、高橋清らは、京都市に対し、連帯して10万円(テープ代、ダビング代その他…推定)の損害賠償金を支払うこと、また全小中学校に配布した「君が代」テープを回収せよ、との勧告を求める。
右地方自治法第242条第一項の規定により別紙事実証明書を添え必要な措置を請求します。
1986年10月16日
京都市監査委員殿
住民監査請求書と訴状全文