[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

五 ・ 国 旗 焼 却 事 件 に 関 す る 判 例

1・アメリカ合衆国の国旗
 星条旗の歴史についてはいろいろ語られている。ベッツ・ロス伝説として伝えられているのは、独立戦争の初期、ワシントンに頼まれたベッツ・ロスが作ったという説である。一七七六年一月、イギリスとの独立戦争の際、ボストンで、一三本の縞とイギリス国旗を左隅に描いた旗が植民地軍の統一の旗として翻った。それまでは、各植民地はそれぞれの旗を持ち、独立戦争が始まっても統一されたアメリカ国旗はなかった。ベッツ・ロスはこの時の植民地軍の統一の旗をもとに星条旗を作ったという。
 そして独立宣言後の一七七七年六月一四日にフィラデルフィアの大陸会議海軍委員会において、一三州の連合を表す旗として、赤白交互の一三本の縞と、青地に白の、新しい星座をあらわす一三の星を描いた星条旗を連邦旗とする決議が行われた。これは一三州の独立とイギリスからの分離を表明したものである。
 一九三一年には国歌が制定され、一九四九年には、毎年六月一四日を国旗制定記念日にすることが定められ、各々連邦の法律として制定された。
 独立戦争、南北戦争、米西戦争、第一次・二次世界大戦、さらにはベトナム戦争という幾多の国家的苦難を乗り越えてきた、合衆国を象徴する星条旗は、それだけ神聖化されている。一九四二年六月には、ルーズベルト大統領の時に議会で連邦国旗決議が定められ、国旗の扱い方が正式に決められた。八条からなるこの決議の第四条では、国旗に対してはいかなる無礼も見せてはならないとされている。また一九四二年の国旗法では、初めて・「国家への忠誠宣誓」が正式に認められ、先にも詳しく述べてきたように、公立学校では毎日始業時には、国旗への忠誠を誓う儀式が行われてきた。
 また一九六七年、すなわちベトナム反戦運動の一環として各地で国旗焼却などが行われたため、国旗を切断、毀棄、汚損、踏みにじる行為を罰する「国旗冒涜処罰法」が連邦法として制定されている。また国旗に余計な記号をくっつけて潤色することを禁じる、いわば「国旗不正使用罪」にあたるものもある。更に、国旗のデザイン、国旗掲揚の時、場合についての規定や、掲揚・降納の手順を定める連邦法律も制定され、各州でも二州を除き、国旗焼却を禁止する州法律が制定された。

(青木富貴子『星条旗のアメリカ』文芸春秋社)
(片山等「星条旗と日の丸」『青山法学論集』第三二巻)…文献1
(奥平康弘「国旗焼却と表現の自由」『法律時報』61巻10号)
(S.M.グインダ−著、和田光弘ら訳『星条旗 1777-1924』名古屋大学出版会) 


2・「国旗不正使用」に関する判例

*Halter v. Nebraska  
 …連邦最高裁
 国旗をビール瓶のラベルに使うことを禁止した。
  「もし人々が国旗を国の力や威信のシンボルとして見ているという事実を州が無視したならば、州には人々  の幸福への配慮が欠けていることになるし、そのような国旗の使用法は人々の眼から見ると国旗の価値を下  げているように映るし、国の力や名誉を維持する目的が果たされなくなるかも知れない。」
                      (The American Constitution (6) P638)  …甲二二一号証  
*Smith v. Goguen  
 …連邦最高裁 一九七四年     415 U.S. 566
 ジーンズのお尻の部分に小さな国旗を縫いつけて街を徘徊した者を処罰したマサチュセッツ州法律を違憲とした。                    (The American Constitution (6) P638)  …甲二二一号証
*Spence v. Washington  
 …連邦最高裁 一九七四年 418 U.S. 405
 一九七〇年五月、ワシントン州で、アメリカのカンボジア進攻に抗議して、ある大学生がアパートの窓から上下反対につるした国旗の前後に黒のテープの「平和のシンボル」を張りつけて、国旗のあげ方を規制した州法律を侵した罪で起訴された。彼は「私は米国旗は戦争や暴力でなく平和のシンボルであると考えていることを人々に知ってほしかった」と主張した。連邦最高裁は、彼の行為は「意思伝達の一つの形態」であり、修正第一条の表現の自由の保護を受けるべきものとした。   
  「ある思想が多くの人々の感情を害するという理由だけでその思想の公への表現を禁止することは米国憲法  の下では禁止されている。…また彼が国旗への敬意を示さなかったことで罰せられるべきでもない。」
                      (The American Constitution (6) P635  …甲二二一号証)





3・国旗焼却等国旗損壊罪に関する判例

*Street vs New York 
 …連邦最高裁 一九六九年四月二一日  394 U.S. 576
 ミシシッピ大学への黒人入学志願者が様々な嫌がらせを受けたことに抗議して、公衆の面前で国旗を焼却した。ニューヨーク州法律の適用は、違憲という判断が引き出されたが、国旗焼却という物理的な行為の問題とは無関係なところで処理された。        (前記奥平論文 P101、 The American Constitution (6) P636)  「表現の自由を守るということは、たとえ国旗に対して挑戦的、あるいは軽蔑的な意見であったとしても、  個人が公共の場でそれを表現することを容認することを意味する。」 
                           (Frain v. Baron事件判決文参照。甲二一二号証)
* Texas v. Johnson  
 …連邦最高裁 一九八九年六月二一日判決     57 L.W. 4770 109 S.Ct. 2533
 …判決は「The United State LAW WEEK」1989.6.20 P4770〜P4781参照。
 一九八四年、ダラス市での共和党大会に際して、レーガン政権反対のデモが行われた。デモに参加したジョンスンが国旗掲揚柱から引きずりおろされた国旗を受けとり、ダラス市庁舎の前で白灯油をかけて国旗を燃やした。国旗が燃えている間、デモ参加者は「アメリカ、この赤と白と青の旗、これに我々は唾を吐く」と斉唱した。この事件でジョンスンがテキサス州の国旗損壊罪に問われた。 
 州は、国旗は「国家たること、また国家の統合を象徴するもの」であると主張したが、連邦最高裁は、五対四の僅差で政治的メッセージを伝えるための国旗損壊行為は表現行為であり、表現の自由の保障を受けると見做した。ブレナンが書いた法廷意見は次のようなものである。
  「(州は、もし国旗が粗末に取り扱われれば、国旗が国家及び国家の統合を象徴していることや、そもそも  国家や国家の統一性そのものまで疑われるようになってしまうと主張するが)修正第一条の原則は、社会が  ある思想それ自体を不快と感じ、あるいは不同意であると見ているという理由だけでは、当該思想の表明を  政府は禁止することが許されない点にこそある。この原則に例外はなく国旗は特別だとの議論はなり立たな  い。」
  「我々は国旗への冒督行為を罰することによって、国旗を聖化するものではない。これを罰することは、か  えってこの大切な表章が象徴しているところの自由を希釈してしまうことになるからである。」
 またレーガン大統領が指名した確信的な保守派と言われていたケネデイも、次のような「苦汁」に満ちた補足意見を書き、法廷意見に賛成した。
  「本件は、単純明快な法律を目の前におかれ、ほかのどこでもない、われわれ最高裁判所にその憲法適合性  の判断が求められている。困ったことに、我々は、どうにも気にいらないが、しかし法律や憲法によればこ  うなるよりどうも仕様がないといったふうに、不本意ながら決定をくださねばならないことがままある。」  「国旗は、アメリカ人みんなが共有する信念、法と秩序と人間精神を支える自由への信念を表現するものと  して、恒在する。国旗は、これを侮蔑視する者さえも保護するものなのである。こう述べるのは、辛いこと  だが、大事なことである。」 
 レーンキストは反対意見を述べ、それには二人の裁判官が賛成した。彼の反対意見の特徴は、国旗が「独特な地位」を占めてきたという歴史……独立戦争からはじまり、ベトナム戦争に至るまでの、二〇〇年以上の戦争の歴史……を詳細に説明し、「(第二次大戦における硫黄島での星条旗のように)星条旗は戦時においても、平和時においても、国家のシンボルである。この国旗ほどアメリカのシンボルの中で世界万人に対しその名誉を誇れるものはない」として、国旗損壊罪は合憲であると主張した。
 一方、スティーブンスの反対意見は、国旗が一定のメッセージを持つものであることを承認はしたが、国旗は、あらゆる思想・信条・心情・イデオロギーを越えたところにある、価値中立的な存在だとし、国旗を特別に保護する立法は、決して特定の思想・信条を押し付けるものではなく、国家の中立性を侵すものではないというものであった。

 この、国旗焼却行為も表現の自由のなかに入るという連邦最高裁の判決は、連邦法の「国旗冒涜処罰法」や、各州の国旗焼却を禁止した法律を無効にするものであり、国民の間に大きな議論をまきおこした。ブッシュ大統領は、判決の翌日、直ちに判決を非難する談話を発表し、上院では九七対三の圧倒的多数で、最高裁判決が修正第一条を冒涜したとして「きびしい遺憾の意」を表明する決議を採択した。下院でも同趣旨の決議を四一一対五で採択した。さらに一九八九年七月にはロバート・ドール上院議員が、国旗を冒涜する行為を憲法修正第一条の保護の対象外とする憲法修正案を上院に提出した。ブッシュ大統領も「硫黄島の上陸作戦では米部隊の三分の一にあたる二万六千人が死傷した。…この星条旗が表現するものは神聖であり、冒してはならない」と、憲法修正を訴えた。(1989.7.1 京都新聞夕刊・朝日新聞夕刊)
 さらに、一九八九年一〇月二八日には国旗保護法(八九年法と言う)が成立し、国旗冒涜に関する連邦法が改正されている。

(奥平康弘「国旗焼却と表現の自由」『法律時報』61-10 1989.10)
(片山等「星条旗と日の丸」『青山法学論集』 )
(青木富貴子『星条旗のアメリカ』文芸春秋社)
(紙谷雅子「象徴的言論としての国旗の焼却」『ジュリスト』 963号)
(遠藤比呂通「法学セミナー」1989.11 )
(木下智史「日の丸焼き捨てと表現の自由」『法学セミナー』No.464 1933.8 )              (坂田秀「星条旗焼却事件と憲法修正第一条」『新聞研究』1989.9…文献8に所収)

*United States v. Eichman
 …連邦最高裁 一九九〇年       110 S. Ct. 2404
 連邦議会が八九年秋に成立させた「国旗保護法」成立に抗議して二つの事件が起こった。シアトル郵便局前で四人の若者が国旗に放火した。テキサスで国旗放火事件を起こしたジョンスンと彼の仲間も、ワシントンの議事堂前で国旗に火をつけて、この法案に抗議した。
 連邦最高裁はこの二つの事件を併合して、今度も先のジョンスン事件と同様に、五対四の僅かな差で、八九年法が政治的デモンストレーションに適用される限り違憲とし、「国旗保護法」を無効であると決定したのである。 ブレナン裁判官による法廷意見は次のようなものであった。
  「…それは結局のところ、何が正統かを州が決めてしまうことを、連邦最高裁が認めてしまうことになる。  …仮にそのような全国民的な合意があると想定しても、ある言論に反対する人々の数が増すにつれて、その  言論を押さえる政府の利益の方がより重要になるのだとする考えは、修正第一条のあずかり知らぬところで  ある。…修正第一条を基礎づける基本原則があるとすれば、それは、社会がその思想それ自体を不快な、も  しくは同調できないものと考えるからと言って、単にそれだけでは政府がその思想の表現を禁止することは  できない、ということなのである。国旗損壊を処罰することは、国旗が尊重され、かつ国旗を尊重するに値  するものにしている、自由そのものを稀釈することとなる。」(文献1 片山 P285)
 この法廷意見に対して、スティブンス裁判官の反対意見は「(国旗は)万人の希求する価値の象徴であるのだから、国家がこれを特別に保護したからといって、正統的な立場や慣行を人に押しつけることになるわけではない。またそのことによって政府は、価値観の世界で中立性を侵したことにはならない」(奥平氏の要約による。朝日新聞 1990.2.20 夕刊 )というものであった。
 この判決後、「連邦議会と各州は、星条旗を物理的に冒涜することを禁じる権限を持つ」という憲法修正第一条の修正法案が上院・下院に提出され、ブッシユ大統領も修正を訴えたが、一九九〇年六月、両院で憲法改正に必要な三分の二の賛成が得られず、廃案となった。                   


*国旗を踏みつける芸術作品展示に関して
 一九八九年二月、黒人学生スコット・タイラーがシカゴ美術館で、星条旗を床にひき、人々が踏む作品(「国旗を展示する正しい方法とは」)を展示した。彼はその作品に「この旗は…アメリカ・インディアンを虐殺し、メキシコ人から彼らの土地を奪った旗である。この旗は数多くの政治家の肩になびき、黒人を虐殺するために使われた旗である。この旗はまた…ヒロシマで何万人、何十万人もの命を奪った旗である」という意見を添えている。
 この展示に対して、愛国団体が抗議のデモや展示会会場前でピケットをするなどの反対運動を展開した。デモの参加者は二五〇〇名にもなったという。また反対を叫ぶ軍人団体は、この展示を止めさせるよう美術館を訴えたが、クック郡判事ケネス・ギルスはこの訴えを却下した。
  「国旗を床にひくこと自体は、国旗を切断したわけでも、摩損あるいは踏みにじったわけでもない。これは  連邦法あるいは州法の定める国旗の冒督行為にあてはまらない。」                 
 また連邦最高裁もスコット・タイラーの行った国旗の批判は表現の自由に含まれることを認めた。
 この事件をきっかけに、上院では九七対〇の圧倒的多数で、国旗を床にひいたり踏み付けたりすることを罰する法律を可決したが、一九八九年の最高裁判決は、この法案をも却下したこととなった。
                            (青木富貴子『星条旗のアメリカ』文芸春秋社)

(北原恵「国旗を展示する正しい方法…星条旗とア−ト」(『インパクション』 115号 1999